右の図は、下記の資料より引用した秩父札所二十番法王山岩之上堂の霊験記の錦絵です。
上部には霊場境内の風景画と霊場の縁起にまつわる逸話が描かれ、下部には霊場の縁起にまつわる
挿絵が描かれています。
「観音霊験記《(埼玉県立浦和図書館所蔵資料)
著者吊:歌川広重(二代)、歌川国貞/画,朊部応賀/編
出版者:〔山田屋庄次郎〕
出版年:江戸末期
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右の図の「観音霊験記《の上部の「霊場の縁起《については、次のような逸話が
記述されています。
寺尾村の孝子
當山は、白河院の御建立にして、遙下に荒川の水、藍のごとく渦まきてながれ、絶頂は峨々として、その風景
言葉に尽しがたし。
霊験の多きなかに、この寺尾村の者、老たる母を、川むかいの宮路という所におきて、朝夕に見まいけるに、或時、
ふと病いのよしを告げ來たれば、急ぎ行んとこの麓の渕に来たりしところ、折しも大雨なかばにて、俄に水まして
歩行わたりすること叶はず、とやせん角やせんと心あせるうち、水は弥増りするばかりなれば、仮令命を捨るまでも、
母の安否を知らずにやにはと、既に渡らんとする所へ、見馴ざる童子、舟に棹さして是に乗れといへば、夢のごとくに
悦びて岸に上り、御身は何處の者と聞けば、我はあの岩の上乃者なり、汝が孝心を憐みて渡すなり、母も兼て我を
信ず、疾々ゆけといふしたに、舟は失て跡なければ、扨は観音にましませしかと、岩の上を伏し拜みて、急ぎ母に
見し所、最早悩みも愈ければしかじかと物語れば、ともに利益を信仰して、一生供養をもなしけるとぞ。
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